第51回 山陽小野田医師会健康ミニ講座 令和7年5月22日
医療法人社団平成会すながわこどもクリニック 院長 砂川新平
<はじめに>
依存症とは日常生活に支障をきたしているにも関わらず、お酒、薬物、タバコなどの特定の物質やギャンブル、買い物などの特定の行動をやめることが出来なくなってしまう状態を指します。依存症が長く続くと、周囲との人間関係が破綻したり、学校に行けなくなったり、仕事ができなくなったりすることで、社会的ならびに経済的な困窮になるケースも多く、通常の社会生活を送ることが出来なくなります。また、アルコールの多飲や食生活の乱れ、睡眠不足などから健康を害するケースも多く、身体的・精神的なダメージを引き起こしてしまいます。
今回は小児に関するネット依存、ゲーム依存についてお話しさせていただきました。
<依存症になってしまう要素>
依存に陥ってしまう要素が3つあります。
1:楽しい、2:飽きない、3:疲れない、の3つです。
「勉強依存」なんて聞いたことはありません。勉強はあまり楽しくないし、長く続けると疲れるし、飽きることもあります。ということで勉強は依存症になる可能性が低いです。
ゲームやネット、パチンコなどを考えてみるとどうでしょうか。楽しいし、全然飽きないし、時間がいくら経過しても疲れないなど、依存に陥りやすい要素をたくさん持っています。
<ネット依存やゲーム依存が増えてきた理由>
現代社会はどんどんストレスの多い世界となり、充足感の得られにくい時代になってきました。子どもたちは学校の宿題や習い事、塾や受験勉強で忙しいのに、学歴だけでは将来が保障されない社会になってきたため、将来のゴールが見えづらくなってきました。それに加え、部活動や習い事で忙しいにも関わらず、活動範囲が広がればSNSでのやり取りなどが増え、1日中気が休まらなくなります。そんな世の中に登場したのがネット・スマホです。これらが手軽なストレス解消法になってしまい、それ自身が「生活の中心」になってきました。
幼い時からメディア漬けになっている子どもたちにも問題があります。今や育児道具の基本はテレビやスマホ、タブレットが中心です。基本的にはテレビやネット動画情報は一方通行であり、会話のやり取りなど一切ありません。さらに言うと、テレビやネットが発信する視覚情報、聴覚情報の量が膨大すぎて、まだ処理能力が低い子ども達には情報量が多すぎて混乱してしまいます。極端に歪んでしまった嘘情報や、常識から逸脱して間違った情報でも簡単に影響を受けてしまう子ども達にとって健全な精神発達にも大きく関わってきます。
<ネット利用の低年齢化>
ネット利用の定年化が加速しています。2024年に行われたこども家庭庁の調査によると、2歳児のネット利用率は58.8%、6歳児の利用率は80.9%と報告されました。スマホの使用に関しても低年齢化が進んでおり、スマホデビューする時期の年齢第1位は小学校6年でした。
<ネット利用の長時間化>
利用の長時間化も大きな問題になっています。前述したこども家庭庁の同調査によると、ネット利用の平均時間は、10歳以上の小学生で226分、中学生で282分、高校生に至っては374分と報告されました。一般的な高校生は毎日6時間以上利用していることになります。
長時間利用の弊害は多く報告されています。2020年に先進国29か国で調査した結果、パソコン・ネット利用時間が長ければ長いほど学力が低下するという事実が報告されました。
長時間利用問題に追い討ちをかけたのが「新型コロナウイルス感染騒動」です。かなりの期間、日本中でステイホームを余儀なくされ、時間を持て余した結果、ネット利用する時間が急激に伸びてしまいました。
<ネット依存について>
2018年の行われた全国の中高生を対象とした調査では、93万人にネット依存の可能性があると報告されました。これは中高生の12〜16%にあたります。この数は、2012年に行われた同調査結果と比較し、2倍近く増加しております。特に若年層の急増が大きな問題として指摘されました。ネット依存症の数は、その予備軍を含めると全国で約254万人いるそうです。
<ゲーム障害とは>
2019年5月、世界保健機構(WHO)が発表した国際疾病分類11版(ICD11)の中に「ゲーム障害」という疾患が初めて定義されました。ゲーム障害をギャンブル依存と同様の行動嗜癖疾患として認定したことになります。
WHOの定めた診断基準は以下のとおりです。
1:ゲームの回数や時間をコントロールできない
2:日常生活よりもゲームを優先する
3:健康などに問題が起きてもゲームを続ける
4:家族や社会、学習、仕事に重大な支障が生じている
大人の診断基準は「この状態が1年以上続く」とされていますが、小児に関してはもう少し短い期間でも診断していいことになっています。
ゲーム障害は脳の一部が損傷していることも報告されています。前頭前野の機能低下、依存に対する脳の過剰反応、報酬の欠乏により強い刺激を求める反応が増加することなどが言われており、これは覚醒剤や麻薬による薬物依存と同様の脳の変化です。脳の障害部位から考えると、ゲーム障害と薬物依存は同じ機序で起こっているということです。
<子どもに与える悪影響>
まだ発達の途中段階における子どもに対し、依存症がもたらす健康被害はたくさんあります。慢性的な睡眠不足、自律神経の発達不全(興奮がコントロールできない、キレやすい)、目へのダメージ(視力低下、急性内斜視)、スマホ難聴、ストレートネック(慢性的な首の痛みや肩こり)、スマホ腱鞘炎など、数多く報告されており、これは短時間利用でも発症したり、悪影響が出るそうです。
<最近のゲーム事情>
ここ数年で世の中のゲーム事情は大きく変わってきました。
今のゲームは基本的にネット接続が必要であり、子どもたちの中で流行しているゲームはオンライン仕様のものが多いです。ということは、小学校低年齢の時期から、全世界に繋がっているオンラインゲームをしていることになります。ほぼ無法地帯であるオンラインゲーム世界の中で、見ず知らずの他人と簡単に交流することさえ可能となってしまいました。
2021年の国内ゲームユーザーは約5500万人と言われており、これは全日本国民の約半分の数になります。そして我が国におけるゲーム市場は、約2兆円の超ビッグマーケットです。世界に目を向けると、ゲーム市場は21兆円を超えているそうです。
<ゲーム依存になる理由>
子どもたちがゲーム依存になりやすい理由は2つあります。一つ目は、子どもの脳は我慢が苦手で誘惑に負けやすいこと、二つ目は、ゲームは日常生活では得られない達成感や満足感が簡単に得られることができる空間であるということです。ゲーム制作会社の専門家集団が英知を結集し、プレーヤーの心理を理解した上で、より長く、飽きさせないような作品を作り上げているのも問題です。
<これから求められる対応>
今の子どもたちの10年、20年後の暮らしを想像する時、デジタル機器が使われなくなっている世界を思い描くのはほぼ不可能です。仕事も家庭生活も趣味も、おそらく今よりはるかに大きくデジタル社会に依存しているはずです。時代は後ろには戻りません。それを考えると、デジタル機器を遠ざけるばかりの対応では勝ち目なしです。
今、私たちが考え、対策する必要があるのは、来るべき将来の暮らしに適応できるよう、子どもたちの足元をしっかり固めておくことです。私たちはもはや「デジタルのある世界」から「デジタルのない世界」へ後戻りすることはできません。この状況を前向きに突破するべきです。
<デジタル社会と上手に付き合うには>
これまで依存症にならないために行われきた、ゲームやネットの「使用禁止」や「時間制限」といった従来の管理方法はもはや時代遅れです。これからの時代に大切なことは、正しい情報をいかに上手に取捨選択し、自分に必要な情報を効率よく選択する技術、能力が必要になってきます。この能力のことを「リテラシー」と呼びます。情報リテラシー、ネットリテラシー、メディアリテラシーなど、様々な種類があります。
<依存症になってしまった方への対応>
我が子がネット依存、ゲーム依存状態になってしまった時の対応で、最も大切なことは「遮断するのではなく、調整すること」です。
急にネットやゲームを遮断すると、本人にとっては大打撃です。これまで積み上げてきたデータやアイテムを喪失し、長い時間をかけてオンラインで築いた人間関係の崩壊につながります。さらには、本人の大切なものを急に奪われたことで、家族に対して猛反発し、むしろそのことがきっかけで、ネットやゲームへの執着が強くなってしまいます。
家族が出来ることの中で重要なことが2つあります。
1つ目は、ネットを正しく理解することです。我が子が利用しているウェブサイトやゲームの内容を知っておくことが重要で、本人の話を聞いてあげたり、夢中になっているゲームを実際に試してみたりして、現状を理解することも効果的です。そうすることで本人との対話がしやすくなります。
2つ目は、ネットやゲームの現状を維持しつつ、それを調整することです。急に遮断することは避け、ネットやゲームの利用方法や利用時間、課金利用限度額など本人と時間をかけて相談し、調整していきましょう。
本人が納得するルールづくりが重要です。