こどもの病気についての座談会

研修会

山口大学医学部附属病院・こども医療センターのPRのために山陽小野田市のスマイルキッズで「こどもの病気についての座談会」が開催されました。

20名以上のご家族が参加され、前半はインフルエンザ、コロナウイルスなどの感染症の話題と喘息、食物アレルギーなどのアレルギーの病気について、後半は個別相談会を実施し、6組のご家族が普段の診察では聞けないお話を相談されていました。

座談会ではワクチンやアレルギーの遺伝、流行中の病気について、山口労災病院小児科部長・田代紀陸先生とすながわこどもクリニック院長・砂川新平先生がとてもわかりやすくお話をされていましたので紹介します。

山口労災病院 小児科部長 

田代 紀陸(たしろ のりみち) 先生

1 ワクチンのメリット

2 アレルギーの遺伝

 ワクチンのメリット

 ワクチンには、公費負担される定期接種と自費の任意接種の2種類のワクチンがあります。定期接種のワクチンは、国が接種するべきだと判断しているもので、お子様を病気から守るために、ぜひ接種することをお勧めします。

 日本は、これまでワクチン接種に関しては世界的に見ると後進国で、接種可能なワクチンが少なく、ワクチンギャップがありましたが、2010年ぐらいから、とても怖い細菌感染症である化膿性髄膜炎を防ぐための肺炎球菌ワクチンやヒブワクチン、冬場に流行するロタウイルス感染症のワクチン、子宮頸がん予防のためのワクチン、B型肝炎ワクチンなどが次々に認可され、ギャップが埋まってきました。ワクチンの効果は絶大で、こどもの化膿性髄膜炎は激減しました。また肺炎球菌は、肺炎や中耳炎の主な原因菌でもあるので、肺炎や中耳炎で入院するこどもも減りました。定期予防接種を受けるのは、お子様の権利なので、それを奪うことがあってはなりません。必ず接種するようお願いします。

 任意接種は、お金の負担が生じるのですが、特におたふくかぜワクチンは接種をお勧めします。おたふくかぜは、合併症として無菌性髄膜炎や難聴などをきたします。後天性の難聴の原因として最も多いことがわかっています。以前この地域でおたふくかぜが流行した時に両側の難聴をきたしたお子様がいらっしゃいました。残念ながら山陽小野田市は、宇部市のような補助はありませんが、1歳過ぎと年長さんの時の2回の接種をお勧めします。

 インフルエンザは、もうすでに流行しています。例年は年末から流行が始まるのですが、いつもと流行パターンが大きく異なり、今後の動向予測も困難です。インフルエンザワクチンは4価で、A型2種類B型2種類が含まれています。今季既にインフルエンザにかかった人もA型1種類のみに免疫ができただけで、他の型のインフルエンザにかかる可能性はあります。今後別の型のインフルエンザが流行するかもしれません。こどもはインフルエンザにかかると脳症などの重篤な合併症を起こすことがあるので、接種がまだな場合はこれからでもぜひ接種をご検討ください。

 新型コロナウイルスワクチンについては、現在のワクチンは、発症予防というより重症化予防のためのワクチンとしての位置付けです。こどもが重症化することは稀なので、基礎疾患のあるお子様は接種された方が良いでしょうが、健康なお子様に対しては、インフルエンザより優先順位は低いと思われます。

 アレルギーの遺伝

 花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー疾患が、そのまま遺伝することはありませんが、アレルギー素因、すなわちアレルギーになりやすい体質として遺伝します。

 アレルギー疾患は「遺伝因子」と「環境因子」の相互作用で発症するといわれています。山口大学小児科の長谷川教授が言われていましたが、北海道は杉がないので、スギ花粉症はなく、白樺花粉症が多いとのことです。環境因子が疾患発症に大きく関与する例です。

 環境因子を減らすことができれば、アレルギー疾患の発症を予防できる可能性があります。食物アレルギーについては、赤ちゃんの皮膚に湿疹があって、皮膚のバリアー機能が低下すると皮膚からアレルギーの原因となる食物が入り込んで感作される(その食物とアレルギー反応を生じる)と考えられています。逆に口から食べることでアレルギー反応を生じなくするように働きます。したがって、生まれてすぐから皮膚の状態を良好に保ち、離乳食の開始を遅らせずに進めることが食物アレルギーの予防になることがわかっています。

すながわこどもクリニック・院長

砂川 新平(すながわ しんぺい)先生

1 今、流行している疾患

2 検査のタイミングについて

3 どの感染症がどこで流行しているか?

 今、流行っている疾患

 今年は夏頃からインフルエンザA型の大流行が見られます。インフルエンザは例年だと冬に流行する疾患ですが、今年に関しては夏からすでに流行が続いています。これまでのコロナ禍で3年もの間、インフルエンザがさほど流行しなかったため、我々の体の中にあるインフルエンザに対する抗体が低下していることが原因の一つと考えられています。

 インフルエンザに加え、アデノウイルス感染症も大流行しています。アデノウイルスはいろいろな感染症を引き起こすウイルスで、特に今年は咽頭結膜熱(プール熱)が多く、これは日本全国でも同様です。学校保健安全法では咽頭結膜熱はインフルエンザと同じく、流行性が高い第二種に分類され、長い出席停止期間が設定されています(症状が消えてもその後2日間過ぎないと登校できません)。

 新型コロナウイルスに関しては感染者数がかなり減ってきました。ただ、まだ一定の確率で陽性者が出るため今後も注意が必要です。冬になって気温が下がってくると再流行する可能性が高いです。当院でも、昨年夏から小児の新型コロナウイルス感染者が激増し、かなりの人数の方を診察しました。ただ、小児に限っての話ですが、コロナ感染者はインフルエンザ感染者に比べるとかなり軽症の印象を受けます。その点は高齢者とは異なると思います。

 検査のタイミングについて

 インフルエンザ、アデノ、新型コロナウイルスは、いずれも感染したかどうかを確認できる「迅速キット」があります。5〜15分程度で判定可能で便利なキットですが、検査するタイミングが重要です。特にインフルエンザ検査は、発熱などの症状が出現してから少なくとも半日以上は時間を空けて実施する方が無難です。熱が出てすぐに受診され、実際にインフルエンザの感染だったとしても、時間を空けないまま検査を施行したらかなりの確率で「陰性(インフルエンザではない)」と判定されます。時にはすぐに「陽性」と出る方もおられますが、それは稀なケースです。新型コロナウイルスは発熱などの症状が出る前からウイルスが体内で増殖していると言われ、実際に感染してから比較的短時間で陽性・陰性判定ができます。インフルエンザは症状が出てからウイルスが徐々に増殖していくため、このような時間差が生まれていると考えられます。なお、インフルエンザに罹患して高熱が出た時、解熱剤を使用しても検査結果には影響はありません。検査を待つまでの間、お子様が高熱や頭痛で辛そうにしているならば解熱剤使用をお勧めします。

 どの感染症がどこで流行しているか?

 感染症に関しては「サーベイランス」と呼ばれる調査制度があります。さまざまな疾患が対象となっており、各種感染症の発生状況と感染者数の変化・増減を継続的に監視しております。特に私のような開業医の立場で診療している現場では、「どの幼稚園、保育園、学校でどの疾患が流行しているか」という流れを把握することが最も大切だと考えています。「あそこの保育園ではアデノウイルスの流行が多い、あそこの小学校○年生ではインフルエンザで学級閉鎖が起こっている」など、感染に関する情報をリアルタイムにいち早くキャッチし、診察効率を上げ、侵襲の強い検査をなるべく少なくするよう努力しています。実際に綿棒を鼻の奥に入れてグリグリする行為はこども達にとって大変苦痛で、ワクチン接種よりも嫌がっている印象を受けます。中途半端に検査すると発見できないこともあるため、比較的強めにグリグリします。私も何度も検査されたことがありますが、かなり痛いです。

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